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2014年7月19日 (土)

映画『ピーター・ブルックのザ・タイトロープ』@KAAT

サイモン・ブルック監督によるドキュメンタリー映画『Peter Brook : The Tightrope』(ピーターブルックのザ・タイトロープ)特別先行上映会を観に、神奈川県・横浜港の神奈川芸術劇場(=KAAT)へ行ってきました。
今秋9月から渋谷のシアター・イメージフォーラムなどで順次ロードショーが予定されている作品です。邦題は『ピーター・ブルックの世界一受けたいお稽古』…………あれ、だいじょぶか。ダサくない? (←たいていの邦題がダッせぇかんじになってしまうのは日本語の構造的欠陥なんだろうか。うーむ) ※ネタっていう映画ではないけど、公開予定なのでネタばれ注意

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KAATの吹き抜け

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当日券が出ていた、おとなりのホールはピーターパン

14:30~16:00 第一部 上映会
休憩
16:15~17:30 第二部 スペシャルトークショー

この“特別先行上映会”なにが特別かというと、トークショー付きである。出演者はサイモン・ブルック監督(49歳くらい。ピーター・ブルック氏の長男。ご本人は英語で話されたので通訳さんいらした)、映画出演者でもある役者の笈田ヨシさん(81歳。この近所にはレジェンドがおおい)、役者・演出家の白井晃さん(57歳。今春からKAATの芸術監督に就任された)の3名である。

お客層 男女比 4:6? 年齢層 平均すると40代後半~60代?
トークショー時に白井さんが「演劇をやっているひと?」と訊いてお客さんに挙手させたところ、ちらほら手を挙げていた。ので、演劇関係者ばっかりってことでもなさそうでした。自己申告だけど。と、するとピーター・ブルックファン、笈田ファン、舞台好き、映画好きだろうか。
会場はKAATの大スタジオ。作者はココの空間すごく好きなんだけど、クッションちょっと固いのが難点。

以前書いた関連記事⇒
『ピーター・ブルックとシェイクスピア展』@早稲田大学
シルヴィ・ギエム×アクラム・カーン『聖なる怪物たち』
映画『注目すべき人々との出会い』@吉祥寺バウスシアター




上映前にサイモン・ブルック監督本人による挨拶があった。以下ざっくり。
父親であるピーター・ブルック(現在89歳の現役演出家。英ロンドン出身の巨匠。ピーター・ブルックが存在しないと演劇芸術およびイギリス文化・フランス文化の価値の一角がごっそり抜け落ちてしまう―っていうくらいのちょう重要人物。ただ日本では舞台芸術やシェイクスピアに興味ないひとはまず知らない)のリハーサル現場は出演者をのぞき長年立入禁止だった(ただでさえ公演はタイトスケジュールなのに邪魔だから)。けど、サイモンは息子なので幼いころから勝手に出入りしていた。それでもサイモンが成長するにつれ、邪魔におもわれていると感じられるようになり出入りしづらくなった。それでもパリの劇場はスキマがたくさんあるので勝手にのぞいていた。それでサイモンは映画監督になったので、時々「アイデアがある」とピーターに話しかける。「ぼくがリハーサル風景を撮影するのはどうだろう?」すると、ピーターが「NO」とこたえる。で、またサイモン「アイデアがあるんだけど……」、ピーター「NO」が繰り返されること15年経過(親子で気が長い!)。ある日、ピーターのほうから「ちょっとしたエチュード(練習曲、下絵、演劇においては即興劇の稽古のこと)をやるから、それを撮影したらどうだろう。映画としては15~20分くらいの短編になるとおもう。iPadで撮影してもいいよ☆」と言われた。サイモンの答えは「Yes」。そして当日、45人のスタッフと7台のカメラを用意して準備OK。ピーターはたくさん人が居てはじめ驚いたけど、サイモンの意図を理解して撮影を進行することができたそうな。めでたし、めでたし。
つまりこの映画は15年間、虎視眈々とピーター(父)の気が変わる瞬間を待ったサイモン(息子)の勝利の成果である、といえるかもしれない。

『Peter Brook : The Tightrope』(86分。2012年。英語・フランス語・日本語字幕付き)
20畳分くらいありそうな大きなペルシャ絨毯(?)が敷かれた暗めの空間(スタジオに見えるけどスタジオではないそうです)。絨毯のまわりには笈田さんをはじめとする20人くらいの各国出身の役者や見学の学生が座っている。赤いTシャツの上にオレンジのシャツを着たピーター・ブルック(巨匠)が白い四脚イスに腰掛けている。そばには愛用のステッキ。イスにはキルティング・ステッチの白いクッションがのせられている。
ピーター「リハーサル現場を見せてくれとよく言われた。NOと答えると、相手は、じゃあこっそり覗くお邪魔虫といこう、と言う。お邪魔虫はなお悪い」
映像は実際のエチュードの風景+ピーター・ブルック本人へのインタビューを組み合わせたものでした。
“トシ”と呼ばれているパーカッショニストの土取利行さんが笛を吹いたり、民族楽器のドラム(名前がわかりません)を打ったり、二胡(か、どうかよくわからないけど)を弾いたり、フランク・クラウチックがピアノを弾くなかで稽古は進められる。
いろいろやるんだけど、原題のとおり、おもにやることは、絨毯の上のタイトロープを綱渡りするというもの(現実の綱はもちろん、ない)。そう簡単にはできない。なにかをごまかしたり、身体感覚をきちんと使わなかったりするとピーターからすかさず指摘される。
ピーター「ほら、綱から落ちたよ」
この、指摘するとき(というか、演出?)に澄んだ青い目でスッと切り込んでいくんだけど、威圧するかんじがぜんぜんない。とても真剣だけど、とても優しい。そしてすぐ、ニコーッと笑う。細めた目の端から、キラキラ星でも零れおちてきそうなニッコリ顔である。満面の笑み。
おれ、この笑い方、ごく最近どこかで見たな……、とおもったら、今さっきサイモン・ブルック監督がおんなじ笑い方をしていた。ニコーッて。表情は遺伝しないでしょ。これは、ピーター&サイモンがちょう仲良しってことで間違いないぜ。
“魔術的”とも称賛されるピーターはんの舞台のリハーサル(今回の映画は本来の意味でのリハーサルじゃないけど)風景、ふつうだ。自然っていう単語のほうがふさわしいかも。
ピーター「演技することは英語でplay、フランス語でjouer、……芝居をする、演じるというのはとても楽しいことなんだよ」
……そこから? 演出家はそこから説明するのか? そうおもっていないとなると、普段プロの役者はいったいなにをおもって芝居をしているんだ。
ピーター・ブルックは、え、そこから? と部外者が感じるような事柄(身体感覚の使い方とか、ものの見方とか、考え方とか)を丁寧にしずかに説明していく。

個人的には1907年イタリア生まれの造形家ブルーノ・ムナーリをおもいだす。

見る、というのがいかに面白いか、描く、というのがいかに面白いか、物事の本質を考える、というのがいかに面白いかを絵本で伝えるという離れ業をやってのけたひと。1998年永眠。

演出するっていうのは、世界を解釈する方法をじぶんのなかで確立し、それをたくさんのひとに教えてあげる仕事だったらしい。
って、したり顔で言うこともできるけど、この映画を思い出そうとすると、あの、ニコーッと笑うピーター&サイモンの顔しか思い浮かばないんだよね。ずっと星がこぼれおちている。

でもって、トークショーたのしかった! サイモンの話によれば、映像は200時間くらい撮影して3ヶ月くらいかけて編集したとか情報も提供されたんだけど、そんなことよりも、笈田さんの話がおもしろすぎる。もともと演出家志望で役者をやっていた笈田さんは、ピーター・ブルックとともに仕事をするようになってから、こんなすごい人がいるんじゃ、じぶんが演出をする必要ないんじゃないか、とおもった話。
笈田「先生というのは、あんまり優秀すぎると、生徒の情熱がなくなってしまうから、あまり優秀なのも考えものだ」
そもそも1968年5月、紹介者を介して突然、よく知らない演出家ピーター・ブルックから呼ばれてパリへ行った話。
笈田「ああ、これがシャンゼリゼ通りか。と、生まれて初めてパリの街並みを見ながら涙が止まらないんですね」
客席「?」
笈田「催涙弾で」
客席「!」
笈田「当時のパリは5月革命で。世界的に学生運動が盛んな時代で……」
え~、パリ5月革命の現場に笈田さん、いらしたのか。レジェンド! 
ほかにも日本の伝統芸能にはまず“型”がある。型を正確になぞることに価値が見い出されているわけだけど、ピーター・ブルック(というかユーロ圏?)は異なる。
ピーター「ヨシ、今日はよかったね。明日はどうする?」
“見たことのないもの”に価値が見い出されるため、どんなによくても同じことはやらない。暗闇の中を手さぐりしているようなものだ、という話などなど。
上映はいらないからトークショーだけ3時間くらいやってほしかった~(本末転倒)。


この日、ちかくの横浜スタジアムでは高校野球の神奈川県大会が開催ちゅうで大磯―横浜商業の対戦は1回戦にもかかわらず盛り上がっていました~(歓声で判断)。

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