2015年3月 5日 (木)

働く貴方に贈る@国立能楽堂

『働く貴方に贈る』という普段よりちょっと遅めに開演する能楽を観に、東京・千駄ヶ谷にある国立能楽堂へ行ってきました。

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夜の能楽堂は幻想的

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定員は627席

《本日のプログラム》
実演解説『能に見る道具の扱い』 20分
解説/観世喜正(かんぜよしまさ・1970年生まれ)←時事ネタ・近江県を披露された
実演/味方玄(みかたしずか・1966年生まれ・京都市在住)←京都からわざわざいらして頂いてようこそ☆

大蔵流・狂言『文山立』ふみやまだち 20分
シテ山賊/大藏基誠(おおくらもとなり・1979年生まれ)←ソフトモヒカンのツーブロックヘア
アド山賊/善竹富太郎(ぜんちくとみたろう・1979年生まれ)←おそろいヘアスタイル

休憩20分

観世流・能『巴 替装束』ともえ かえしょうぞく 80分
前シテ女/後シテ巴御前の霊/片山九郎右衛門(かたやまくろうえもん・1964年生まれ)
ワキ旅僧/髙井松男(たかいまつお・1948年生まれ)
ワキツレ従僧/則久英志(のりひさひでし・1964年生まれ)
ワキツレ従僧/野口琢弘(のぐちたくひろ・1977年生まれ)
アイ里人/茂山良暢(しげやまよしのぶ・1982年生まれ・京都市在住)
笛/藤田次郎(ふじたじろう・1952年生まれ)
小鼓/古賀裕己(こがひろみ・1954年生まれ)
大鼓/髙野彰(たかのあきら・1959年生まれ)
後見/味方玄&分林道治(わけばやしみちはる・1967年生まれ)
地謡/小島英明(こじまひであき・1970年生まれ)&角当直隆(かくとうなおたか・1968年生まれ)&佐久間二郎(さくまじろう・1972年生まれ)&山崎正道(やまざきまさみち・1963年)&永島充(ながしまみつる・1968年生まれ)&観世喜正&野村昌司(のむらまさし・1970年生まれ)&遠藤喜久(えんどうよしひさ・1962年生まれ)

能舞台上(演者)の年齢を平均すると、1967年生まれ=48歳くらい。


舞台下のお客層 男女比5:5 年齢層 平均すると60代くらい?
“働く貴方”にお届けする企画公演だが一労働者というよりは、部長クラスより上層部および取締役といった年齢層であった。和装率もそれなりに高いが、仕事帰りっぽい若そうな方々もいらした(あくまで見た目判定)。2/3くらいが常連客、1/3くらいが初心者などライトユーザー(作者含む)かなー。ほぼ満席。

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各席に字幕表示画面つきです

作者は能を観るとウトウトしちゃうのであんまり行かないのですが、
(以前書いた記事⇒第25回能楽研鑽会  第29回新宿御苑森の薪能『六地蔵』『井筒』
お正月に歌舞伎座で「女暫」を観てておもったんだけど
(1月に書いた記事⇒壽初春大歌舞伎
…………巴御前、ラブリーだな。
『巴 替装束』解説の段階で観世喜正さんも「実在したかどうか定かではありませんが……」と一言添えるくらい史実に紛れ込んだ空想キャラクター感ハンパない人ですが(巴御前の属性は源氏の武将・木曽義仲=源義仲の愛妾にして怪力無双の美女、という突き抜けたミラクル設定。いちおう背景は平安時代末期~鎌倉時代初期)、ちょう魅力的である。
そんなミラクル巴御前の演目なら、おれ、ウトウトしないんじゃなかろうかーとおもって観に行きました。結果、行って大正解☆ おれ秀逸♪

『巴』は能の演目分類カテゴリーの“神男女狂鬼”において“男”=修羅物における唯一の女主人公、というレア演目です(今後だれかが作らなければ)。
修羅物は“男”=武者の霊が主人公の夢幻能(ワキ方の見る夢や幻でした~というやつ)で、霊が生前の合戦や死後の苦しみ(修羅道に堕とされてしまっているため)を語る、というか舞うのが基本らしいです。
便利なサイトとか読んでください⇒the能ドットコム

ワキ旅僧(信濃=長野県出身)が都見物の旅の途中、近江=滋賀県の琵琶湖のほとり粟津(今の大津市?)で里の女(実は死んだ巴御前の仮の姿)が宇佐八幡宮の神前で泣いているのに遭遇、というのがプロローグ。
で、いろいろあって(ざっくり)、ワキ旅僧はアイ里人にこの地での巴御前(女武者として戦にお供した)の戦模様や木曽義仲の最期を聴かされる。
ワキ旅僧が回向のために読経していると長刀をもった巴御前の霊が現れて、大勢の敵との果敢な戦や討たれた木曽義仲の自害の様について再現する(あくまでひとりで)。
兜と甲冑(に見立てた烏帽子と表衣)を脱いで、やっぱりひとりで木曽へ落ちのびてゆくのがエピローグ。

『巴 替装束』なので装束に注目すると、前場では“里の女”らしく淡いペールグリーンのチェック柄の小袖(たぶん)に斜めに散らした草花文様がさとび(? いや、豪華なんだけどね)な着流しのお衣裳。意外にも可憐な表情の小面(こおもて。ごく一般的に様々な演目で使われる若い女面)……だったかなー。とにかく可憐だった。
※さとび=里び。いなかじみていること。田舎風。みやびの対義語。
後場では金の地模様が入った白(クリーム色に見えたのは照明のせいだろうか)の下衣に大口袴、オレンジ色の軍配柄(?)が勇ましくみやびな上衣を重ねたお衣裳に着替え、さきほどの小面と烏帽子。手には長刀。
※みやび=雅。優美、風流、上品なこと。さとびの対義語。

やっぱり笛の強烈で切ない音色と巴ちゃんの大立ち回りがかなしくてよかった。←巴ちゃんが追っ手を蹴散らしているあいだに瀕死の木曽義仲は自害してしまう
この地で今際の際となった木曽義仲(ちょう重症)が「巴も一緒に自害します~」ってもちろん巴ちゃんは寄り添ったのに「汝は女なり、忍ぶ便りもあるべし~」(←おまえは女だからひとり生き残ってくれ、これは主命だ、の意)とか、いま? いまさら? そういうことは出陣前に言えよ! ということを言われてむせび泣く場面とかをはじめ、面が表情豊かで心打たれた。←面そのものは漆塗りの木彫りなのでもちろん不動

能面師さんが「面は能楽師さんが身につけて舞うための道具であって、壁に飾る美術品じゃない」と言っていたことに、おれも賛成。
面を身につける能、それに人形を操る文楽の最大の魅力は、演者をどんなにジロジロ見つめても絶対に視線が返ってこない安心感と不可侵性にあるとおもう。

とくに8人がかりの地謡が「/巴泣く泣く賜はりて、死骸に御暇申しつつ、行けども悲しや行きやらぬ/」のところとか、切ない。
もう死んでいる木曽義仲(主君にして恋人)の死骸にわざわざお暇を……! いいよ、そんなことしなくて、巴ちゃん……!! とおもった。ちょっと歩き出したけど、思いきれなくて戻ってきちゃうし。ううぅ。←シテ方がひとりで演じておりますので舞台上は木曽義仲の死骸とか転がってはないです。ぜんぶイメージ。

巴ちゃんLOVE♡

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ロッカーは10円(コインを返却しないタイプ)という謎の金額設定

2013年10月18日 (金)

第29回新宿御苑森の薪能『六地蔵』『井筒』

東京・新宿御苑へ第29回森の薪能(たきぎのう)を観に行ってきました。

しょっぱなから生臭い話をすると、イギリス風景式庭園内の特設会場は3290席。大半はS席6500円、A席5500円。つまり一晩のチケット収入だけで2000万円超のなかなかにBIGイベントである。でもきっと設営&撤去だけでけっこうお値段はるんだろうな~でもこれ以上は限界だろうな~(人間のサイズ感は不変なので、これ以上イスを置いたとしても遠すぎて単純に観えない)……はやい段階で前売り券ソールドアウト。はやめに購入しておいたオレえらい。お能と狂言は1998年頃に「有史以来の盛況」と称されていたが、いまも高止まりのまま盛況が続いているようだ。いいぞいいぞ。

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閉苑後の大木戸門から入退場する         あとの新宿門&千駄ヶ谷門は封鎖されている

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イヤホンガイド1500個むりょう(保証金1000円預け)          シンボリックなドコモタワー

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工事現場仕様の仮説照明に導かれて歩く3000人     葬送の列のような物悲しさがある(でも芝生はふかふか)

日没とともに閉苑する新宿御苑にはそもそも外灯がない、なんてこと初めて気が付いた。足元けっこう暗い。
二抱えも三抱えもある巨木がわさわさ揺れる御苑の闇にバルーン照明がまぶしい。なんだか人魂っぽい。
工事現場並に誘導灯を振る係員の方々も点々といらっしゃる。

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火入れをした舞台

お屋根はなくても柱があるのは面をつけた能楽師さんたちは視界が狭いので、柱を目安に舞を舞われているから必要なのだそうです。

プログラム銘【世阿弥生誕650年記念】

火入れ式

狂言『六地蔵』 30分くらい
シテ すっぱ(盗人や詐欺師のこと) 野村万作(←人間国宝)
アド 田舎者 野村萬斎
小アド すっぱ仲間 石田幸雄 竹山悠樹 月崎晴夫
後見 岡聡史

休憩15分
真野響子嬢&笠井賢一氏によるトーク(←響子嬢がものすごいパワフルに喋っていた)

能『井筒』物着彩色之伝 100分くらい
シテ 有常ノ娘&里女 梅若玄祥
ワキ 旅僧 宝生閑(←人間国宝)
後見 小田切康陽 山崎正道
大鼓 國川純
小鼓 大倉源次郎
笛 藤田六郎兵衛
地謡 長山桂三 浅見慈一 馬野正基 柴田稔 岡田麗史 浅井文義 観世居銕之丞
    西村高夫

地味にゴージャスな出演陣である。

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パンフレット

お客層 半分くらい50~60代 半分くらい20~40代
男女比 3:7
和装の方々やドレッシーな方々もいたけど大半は防寒対策な恰好と芝生を歩ける足元だ。3時間近く野外にいるわけなので。ショ袋の使い回しかもしれないけど、けっこう三越の紙袋や伊勢丹の紙袋を持っている人がいた。新宿駅周辺でお買い物&お食事してから来たんじゃなかろうか、という感じ。三連休の最後の夜だし。ちなみにパンフの裏表紙は伊勢丹タンである。

この夜は台風接近中につき風は強かったものの、晴れ。野外なので雨天・荒天中止である。間に合ってよかった。ヘリだか自衛隊機だか米軍機がけっこう騒がしかったけど。
薪は燃えているんだけど、さすがにスピーカー、照明完備。パイプ椅子。夜店とかはなし(あってもいいと思う。なくてもいいけど)。
で、コオロギだかカンタンだか鈴虫だかマツムシだかがず――――っと鳴いていた。風流? 『六地蔵』が始まると同時に照明が明るくなったんだけど、それに対抗するようにさらに盛んに鳴き始めた。蝉かと思った。虫って負けず嫌いだ。

で、羽虫が顔にぶつかってきたり、冷たい風に晒されながらも野外で観る能、いい。(狂言はいつどこで観てもいいので省略)。
面だ。女面(小面なのか若女なのか遠目で判別できないけど)は白い。能面には赤とか黒とか金とかもあるけど、白。しかも檜に膠と白玉胡粉を下塗り、雲母などを上塗りしているため(?)かなめらかな艶がある。
そこに薪の炎がチラチラ反射するのだ。うっとりしない訳がない。風の音が混じる鼓と笛もいい。

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星月夜の下で『井筒』なんてファンタジック


余談だけど、東京のお客さんの悪いところは、公演が終わる直前に席を立ち始めることだ。体調悪いとか、遠くから来ているので終電が、とか、仕事を途中で抜けだして来たタイムリミットとかとか、のっぴきならない事情の可能性もあるけど、あれはきっと「出口に人が殺到して混むからフライングしたい」だけでしょう? そこまで居たんなら拍手ぐらいしてからでも罰は当たらないと思うんだよね。みんなせっかち。好きにしたらいいけど、ちょっと邪魔。

2012年6月13日 (水)

第25回能楽研鑽会

東京・千駄ヶ谷にある国立能楽堂へ「第25回能楽研鑽会」を観に行ってきました。

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とつぜんの重厚感                             計3時間の公演予定
                  

「能楽研鑽会」とは…英題「the recital of new age noh artists」。能楽堂養成所の研修生や修了者や各流各家の子弟さんらによる、若手さんたちの技芸向上のための会です。
ざつに言うと若手さんたちの発表会。数か月に1度開催されているようです。

えー、知ったかぶって説明しましたがHPとパンフレットより知識を拝借しました。
作者は能を観たことがありません。学生のころ能楽堂には入った筈ですが、居眠りしていたことしかおぼえていません。眠かったんでしょうね、しかたなし。
そういうわけで改めて挑戦しました。

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小鳥が鳴く中庭の長閑さ                        能面は33万円で買えるのか

グッズ売り場にふつうに面も並んでいた。「相場は40万円」と少し割安であることがさり気なく主張されていた。しかし、作者のすきな「泥眼」(髪を振り乱し、虚ろな金眼をした狂おしい女の面)グッズはなかった。すきなのにな。
そういえば何年か前に、能面を彫る趣味が中高年のあいだでひそかなブーム、という記事を読んだけどいまだにひそやかに流行しているんだろうか。作者も彫ってみたいな。

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この日は自由席。あきらかに正面が人気ですな。      お屋根裏にもライトと火災報知器?

独特の木の香りと柔らかいイスが特徴。ただ足元がちょっと狭い。

公演プログラム

狂言(和泉流)成上り
舞囃子(金春流)田村
舞囃子(観世流)草子洗小町
舞囃子(観世流)百萬
舞囃子(観世流)鞍馬天狗
―休憩―
能(宝生流)養老

内容について知りたい方は能.comを参照してください。作者は説明できませんので。
休憩が17:30くらいなのでこの段階で帰る方々、仕事終わりなのか狙っていたのかそこから入る方々など、能だけで90分ほどあるのでそういうことになるらしい。
観客は、平日なのでじいさまばあさまばっかりかと思いきや、小中高生くらいの子や学生らしき方々などもいました。もしくは関係者? 午後だから学校おわりでも間に合うか。なにぶん平均年齢層が高いので(舞台上の演者さんの年齢の2~3倍)和装や小奇麗な恰好の方ばかりでしたが、小汚い恰好(作者)でもそんなに浮いてなかったとおもう。だいじょうぶ。

眠いのは作者だけではない
休憩後、能がはじまって30分くらいで客席が落ち着きを失う。ウトウトしたり、モゾモゾしたり、舌打ちしたり、出入りしたり。やっぱり眠いのは作者だけではない!
役者の方々のお衣裳は横から見るとカブトムシっぽくて(もしくは19世紀流行のバッスル・スタイル)お可愛らしいなぁ、とおもって観ていたのですが、いかんせんジッとしているよりも疲労困憊しそうなスロー・モーションが綺麗で眠気をさそいます。うーむ。ゆっくり動くのも面をして謡うのも大変だろうけど、結果やっぱり眠い。うーむ。足拍子も囃子も地謡もいいけ(以下同文)。

もしかして能は夢見心地で観るものなのだろうか。ちなみに文楽は気兼ねなく寝てオッケーです。たぶん。太夫さんの迫力ある声でクライマックスにはどっちみち目覚めるから。

おもいだしたのは「浮世風呂」の芝居を語ったせりふ
古左ェ門「……すべての役につらねといふものを長たらしくいふを、見物耳をすまして聞居たもんだが、當時はきく人もないから、いふ役者もなし。兎角てきぱきと早手まはしな事がはやる世の中……」
中六「むかしは優長だから、つらねやせりふを掛合ってゐたらうが、今ぢやァ流行おくれだ」
ちなみに「つらね」というのは、物のおもむき、由来、効能などをながながとおもしろおかしく述べ立てるせりふのことだと注釈。今からちょうど200年前の江戸にあって早手まはしが流行だったなら、いまごろ遠心分離して吹き飛んじゃっているな。
そういや寺門静軒(江戸末期の儒学者)も歌舞伎みながら寝てたな……。
伝統芸能をウトウトしながら観るのも伝統なのかもしれない、と結論付けました。


式亭三馬&静軒いいよね

研鑽会はまた10月に開催する予定だそうです。

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